2006年3月23日

山田礼子「一年次(導入)教育の日米比較」

導入教育に関する調査、論考をまとめた本。主にアメリカを対象としている。今まで教科書はいくつか出ているが、学術的な本は少ないため、導入教育がなぜ日本の大学にも必要と言われるようになったのかを知るために有用な本だと思う。

まず、アメリカの大学の特徴として、IR(Institutional Research Office、日本語では機関調査部と訳されている)の存在が指摘されている。p29以降に詳細が書かれているのだが、「大学内部のさまざまなデータの管理や戦略計画の策定、アクレディテーション機関への報告書や自己評価書の作成」を仕事にしている機関であり、教育研究、組織管理の改革を支援している。日本ではセクショナリズムの壁もあって、現状ではこういう機関は少ないのでは、と思う。しかし、国立大学も独法化したので、各大学、学長や副学長の直下にこのような機関ができていく、もしくは私が知らないだけで、すでに出来ているのかもしれない。

実践の観点からは、p91以降で論じられている「ピアリーダーシップ・プログラム」が参考になると思う。いわゆるSA(Student Assistant)になると思うが、どのように育成していくか、ということが重要な要因だと思う。導入教育を行う場合、その授業を受講した先輩の力というのは1年生にとって極めて大きいと思うからだ。2006年度から京都外大で実施する「言語と平和Ⅱ」においても数年後にはこのような方式をとれればと思っている。

正月に読んだのだが、今チェックしたところをぱらぱらと見返していると、頭に入っていないところも多い。もう1回チェックしておかないと。

2006年3月19日

山本眞一「大学事務職員のための高等教育システム論」

職員向けの大学論。内容自体は比較的平易で、どちらかというと若手職員向けだろうか。こういった知識は体系的に教えられることも少なかったし、知識を整理するためにはいい本だと思う。また、職員として働き出すと、自分の大学しか見えなくなると思うので、その辺を打破するきっかけになるのかもしれない。大学に勤務して、職員の役割の重要性をひしひしと感じている教員としては、ぜひ多くの職員に読んでもらって意識を高めていただきたいと思う。

何でもかんでも二極化が叫ばれる昨今だが、第六章にて大学職員における二極化も指摘されている。こういう問題は、教員でも同じだと思うが、トップ層の意識改革と草の根運動の両面から解決していくしかない。もちろん、大変だが。。。

1点気になる点があった。第二章で大学院の規模が小さいことを問題にしており、原因に日本の雇用実態をあげている。確かに雇用実態には問題はあると思うが、だからといって今のような大学院の拡大を進めていいとは思えない。企業が院生を多数採用するようにならない限り、大学院生を増やすべきではないと思う。先に院生が増えてしまい、大学生の数も減っているような現状では、研究職が増えないのは当然なのだから。

2006年3月 9日

渡部信一「ロボット化する子どもたち 「学び」の認知科学」

「学び」を、ロボットの「学び」、障害児の「学び」という視点から考えた本。ロボットを対象にして、人工知能の進歩や停滞から、行動主義心理学、認知心理学、認知科学、状況的学習論というパラダイム変化を説明しており、非常に分かりやすい。理系の人にも、文系の人にも理解しやすいと思う。参考図書として使いたい。

第5章で「教え込み型教育」と「しみ込み型教育」について述べられており、日本で伝統的に行われてきた「しみ込み型教育」について振り返るべきだと指摘している。職人のわざの伝承などはたしかに模倣などから始まる。長年共同生活をしたりすることで、言葉では伝えられないものも伝えられる関係になるともいえる。このような学びは非常に手間もかかるわけだが、うまくいけば効果は高い。教育現場にどう取り入れていくのか、というのが課題といえる。

eラーニングについても言及されている。やや否定的に取り扱っている印象も受けたが、子どもたちにとってのリアリティはどんどん変化しており、高度情報化時代の「学び」とは何かを考えていく必要がある、と言うことだと思う。また、自閉症の子どもにおける「学び」についての部分は知らないことも多く、勉強になった。

渡部先生は東北大学インターネットスクール(ISTU)でお名前は存じていたのだが、こういう研究をされてきたとは知らなかった。

2006年3月 6日

平高史也・古石篤子・山本純一「外国語教育のリ・デザイン 慶應SFCの現場から」

SFCにおける外国語教育の理念、カリキュラム、教材開発などについて書かれた本。SFCでは、英語のみならず、ドイツ語、中国語、スペイン語、フランス語、マレー・インドネシア語、アラビヤ語、朝鮮語について第一外国語として学習できるような環境作りをしている。孫引きになるが、三浦信孝は『多言語主義とは何か』(1997)において、「言葉の多様性に意義を認め、互いに相手の言葉を学びあうことで意思の疎通をはかろうとする態度を『多言語主義』と呼ぶことができる」と述べている。この『多言語主義』というのは、うちの大学にも通じるものがあり、参考にできるところがたくさんあるという気がした。

2部では、カリキュラム、IT、留学制度の各論が、3部では上級向けのコンテンツ重視(外国語を学ぶ、から、外国語で学ぶ、という変化と言えるだろか)の取り組みが記されている。専門的にはIT利用(CALL)に目が行く部分もあるが、外大に勤める身としてはカリキュラムとコンテンツのところが興味深かった。学生にいかに外国語を身につけてもらうか、さらに教養を身につけてもらうか、というところはこの2つに依存するところが大きいと思うからである。ITや留学は補助的に支えるものかな、という気がしている。

ともかく大学における外国語教育を考える際には参考になる本だと思う。

ところで、望月君が出てきてびっくりした。スペイン語の教材を作っていたとのこと。すごいなー。うちの大学でもなんかやってもらわないといけないなー(笑)。2006年2月25日にSFCでシンポジウムがあったようで、望月君が感想を書いておられました。「『次世代の外国語教育デザイン』に思う」