大学のクラブ&学部の後輩である藤原辰史@京都大学人文科学研究所の初単著。私には縁遠い分野であり、的外れな感想になるかもしれないが、記しておくことにする。
個人的には、まず、この書でとりあげられている有機農法のバイオ・ダイナミック農法(BD農法)が、シュタイナーの提唱したものであるということに驚いた。教育分野では聞いたことがあるが、農業などにも通じていたのですね。
ポイントになるのは、自然の循環に人間を位置づけること、この中で農民としてのアイデンティティを高めることにあるのだと感じた。農民としてのアイデンティティについては第5章、第6章などで述べられており、化学肥料を使わずにBD農法に従事することによって土壌への意識が高まり、作業を通じて「自分が農民であることを強く思う」ようになる(p108)、とある。このことによって農業に集中させるとともに、自然との共生を意識させる。
「自然との共生」という考え方そのものは言葉だけ見れば正しいと思えるが、ここでは、自然の循環に重点を置きすぎ、人間の多様性を奪う役割を果たしてしまう。その結果、「人間と動植物の境界」よりも「人種と人種の境界」に太い境界を引き、収容所に”囚人を動物に変える働き”を持たせることになる。これがナチスによって好都合であったわけなのであろう。
上記の理解が正しいかどうかはあやしいが、本の感想としては、当時の文献や手紙などの引用なども多く、かなり詳細に調査されており、とても重厚な印象を受けた。さすがといえる作品であった思う。
知識不足や分野が違うからだと思うが、ちょっと分かりにくいと思ったのは、章によって時代が前後するからかナチ党やダレーのBD農法に対する扱い、考え方の変化を把握し切れなかった部分があった。附録の年表などに対応させておいてくれると把握しやすいのかな、とも感じた。